小説「砂の女/阿部公房」感想


はじめに

 ここでは、阿部公房の作品「砂の女」を読んだ感想について書く。


砂の女について

 砂丘の中の集落にて、穴の中の一軒家に閉じ込められた男の話。 男はどうにかして脱出することを試みる。 しかし、同居人の女は穴の中の生活に満足していて逃亡には協力的ではない。 男を閉じ込めた集落の人間たちは話を聞いてくれない。 あり得ない状況に陥った男が何を考え、 どういう運命を辿っていくのか、という作品。


感想

 現実世界から少しずれたフィクション作品というのは、 明らかなファンタジー作品と比較して、 その世界に没入しやすいように感じる。 始めは「穴の中に家があるってどういう状況?」と疑問に思うわけが、 具体的で的確な描写により、 まるでノンフィクションであるかのように錯覚できる。

 この作品は「生きる意味とは何か」を考えるきっかけになりそうだなと思った。 まず冒頭で、未発見の虫を探しに砂丘を訪れた男は騙される形で穴の中の家に閉じ込められる。 男はなぜこんな状況に陥ったかは分からないし、 読者側もこの状況への興味を駆り立てられる。 「砂の女」ではそういったミステリー要素を楽しむこともできるが、 私はそこがメインのテーマではないように思った。

 穴の中の生活は不自由であり、男は元の自由な生活に戻りたいと願った。 しかし、途中からは本当に元の生活が自由だったのか、男は考え始める。 そして、何度も何度も脱出を試みては失敗することを繰り返すうちに、 「脱出すること」に対して生きがいを感じるようになっていく。

 始めの頃は男が常識人で、同居人の女がおかしい人間のようだったが、 精神的に追い詰められた男は少しずつおかしくなっていった。 終盤では女から「あんた、気が変になったんじゃないの?(省略)」(引用、p.254)とまで言われる。 そう言われても男は自分が狂ったのかどうかも分からない。

 たしかに、穴の中の生活は苦しく不自由かもしれない。 しかし、男の元の生活も自由なのかと言われれば分からない。 また、同居人の女は穴の中の生活に満足して暮らしている。 さらには女はその生活に幸せすら感じている節もある。 そして最後には男も穴の中の生活に生きがいを見出す。

 自分がいる環境によって生きる意味も変わってくるという、 当たり前と言えば当たり前なことに私は気付いた。 この「砂の女」には様々な要素が詰まっているが、 その内の一つに生きる意味や目的を考えるきっかけになる要素があるような気がした。

 あと、阿部公房の文章はスッキリしていてとても読みやすい。 今まで読んできた小説の中でもトップレベルで簡潔に描写が行われている。 そのときそのときに必要な情報が的確に提示されて、 読む側はストレスなく読み進めていくことができる。 私もこんな文章が書きたい。


おわりに

 ここでは阿部公房の「砂の女」の感想を書いた。 何が言いたいか良く分からなくなったが、とりあえず書けたので良し。 また、阿部公房の他作品も読んでみたい。


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